カレンダーガール
「お待たせしました」
私は紙コップに入った水を差し出した。
「ありがとうございます」
手を合わせてから受け取るおばあさん。

それからしばらく、私はおばあさんの話し相手をした。
おばあさんには子供が3人、孫が8人。
ご主人を昨年亡くし、今はひとり暮らし。
子猫を飼っていて、毎日散歩をするのが楽しみ。
少しでも緊張を和らげようと、いろんな話をした。

「そろそろ検査に入りますね」
しばらくして、看護師さんが呼びに来た。
「頑張ってください」
私はおばあさんから水を受け取り、笑顔で送り出した。

それから、残った水を片付けようと処置室へ向かう。
その時、
ガチャンッ。
私は何かに躓いて、反動で置いてあったカートを倒し、水をこぼし床に倒れ込んだ。

わー、ビショビショ。
それに、みんなが私を見ていて、視線が痛い。

「危ないですよ。気をつけてください、先生」
意地悪そうな顔で差し出された手。
でも、私にはわかっている。この人が足をかけたんだ。
私は差し出された手を払いのけ、何事もなかったように立ち上がると、ロッカーへ着替えに出た。
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