カレンダーガール
ガラガラ。

「いらっしゃいませ」
「こんばんは」

えっ?
聞き覚えのある・・・

「あれ、桜子ちゃん」
やっぱり剛先生だ。

そして、明日鷹先生と有香さんも一緒。
有香さん、やっぱり綺麗だな。
あれ、でもちょっと痩せた?

「何してるの?」
テーブル席に向かいながら、私の前まで来た明日鷹先生が足を止めた。

「母の手伝いを」
「勤務だけでも忙しいはずでしょう?」
「大丈夫ですよ」
私は笑ってみせた。

3人は煮物や揚げ物、お造りを注文。
先生達はビールを、有香さんはウーロン茶で乾杯した。

でも変だなあ。そんなに盛り上がっている様子が無い。
時々、有香さんが笑顔を見せるだけで、明日鷹先生はどちらかというと不機嫌な感じ。

「気になる?」
たまたまテーブルの横を通りすぎる私に、小さな声で剛先生が聞いた。

「何がですか?」
「有香さんと明日鷹の事。ずっと見てるから」
「べ、別に・・・」
自分でも恥ずかしいくらい動揺してしまった。

その時、
ガチャンッ。
隣のテーブルでグラスの割れる音がした。
「あー、ああー」
お客さんの声。

私は慌てて駆け寄リ、テーブルを拭き、腰をかがめて床に散らばったグラスを片付ける。

「痛っ」
突然、指先に痛みがはしった。

ポタポタと、真っ赤な血が足元に流れ落ちる。
どうやらガラスで指を切ってしまったらしい。

「切ったの?馬鹿だなあ」
寄ってきた明日鷹先生の呆れた顔。

馬鹿って・・・
唇を尖らせた私の手を取り、明日鷹先生が傷口を見ている。

「気をつけなさい。傷は深くないから、消毒すればいい」
「ありがとうございます。でも、放っておいてください」
素早く手を引っ込めると、私は割れた食器を盆にのせ厨房に向かった。

「ちょっと、桜子」
母さんの慌てたような声が聞こえたけれど、今は無視。
ポカンとしている明日鷹先生に、母さんが謝っているのが見えた。
ったく、何しているんだ私。
< 82 / 248 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop