スパダリな夫はケダモノな本性を隠せない
 とはいえ、受付スタッフがいなければクリニックは回っていかない。
 そこで、身元がしっかりしていて、医療事務に詳しい凪沙の存在が脳裏に浮かんだという。

『凪沙ちゃんなら、医療事務の経験があるからレセプト処理もできるでしょ? 期間限定でいいの。うちのクリニックを助けてくれない?』

 と必死に懇願されてしまったのだ。

 凪沙は結婚前、とあるクリニックの受付スタッフをしていた。
 実家である藤枝総合病院で働くことも考えたが、医院長の娘ということで忖度をつけられてしまうかもしれない。
 それを危惧して、父親の研修医時代の同期である先生に雇ってもらったのである。
 
 ――雇ってもらったっていうか、あのときも……。

 お世話になった雇い主の顔を思い出し、思わず苦笑してしまう。

 あのときも受付スタッフが急に辞めてしまい、『凪沙ちゃん、病院勤務を希望しているならうちに来てくれないかな?』と半ば泣き落としされて就職したという経緯があるのだが……。

 結婚を機に仕事を辞めてしまったが、確かにレセプト処理はできるし、受付業務もできるだろう。
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