スパダリな夫はケダモノな本性を隠せない
 ここにいる間だけは、少しだけ悠真との微妙な関係を思い出さずに済む。
 きちんと真っ正面から向き合って考えなくてはいけないだろうけど、今の凪沙は必要以上に臆病になってしまっているようだ。

 問題と向き合うには、もう少しだけ時間が必要かもしれない。

 書類の整理をし始めていると、デスクにお菓子の包みが置かれる。
 慌てて顔を上げると、そこにはクリニックに勤めている医師、諏訪が立っていた。

「おはよう、小椋さん」
「おはようございます、諏訪先生」
「それ、実家から送ってきたお菓子なんだ。よかったら、どうぞ」

 デスクに置かれたお菓子を見て、「ありがとうございます」とお礼を言う。
 すると、彼は屈託ない笑顔を見せてきた。
 諏訪は霧子の夫の後輩で、大学病院から引き抜かれたのだと聞いている。
 物腰柔らかく、丁寧な診察をする諏訪は、患者からの人気も高い。
 年齢は、悠真と同じだったなと脳裏に過り、また知らず知らずのうちに悠真のことを考えて切なくなる自分がいることに気がつく。

 ――職場では考えないようにしなくちゃ。

 悩みを吹っ切るように、目の前にいる諏訪に話しかける。

< 28 / 61 >

この作品をシェア

pagetop