スパダリな夫はケダモノな本性を隠せない

「素敵なお医者様になってください。負けないでくださいね。藤枝さんはそう言ってくれた」

 覚えている。小さく頷くと、彼は嬉しそうに破顔した。

「最初はビックリしたけど、藤枝さんがくれた大福が甘くて美味しくてね。応援してくれている人がいるんだから、これからも頑張ろうって思えたんだ」
「諏訪先生」
「あのあと、藤枝さんが院長の娘だと知ってびっくりしたよ」
「そうだったんですね」
 
 あのとき、凪沙は大学生だったと思う。社会のことを何も知らずに、のほほんと生きていた頃だ。

 そんな小娘に励まされたことを、今も大事に思ってくれているのだろう。
 クリニックに臨時スタッフとして入ったばかりの頃から、諏訪は何か言いたげにしていたことを思い出す。

 きっと、初めて出会った時のことを思い出してもらいたい。そう思っていたからなのだろう。

 ようやく彼の行動の意味を知り、慌てて頭を下げる。

「本当にすみません。なかなか思い出せなくて」
「いや、それは当たり前だよ。気にしないで」

 柔らかくほほ笑む諏訪を見てホッと胸を撫で下ろしたのだが、すぐにそれを改める。
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