スパダリな夫はケダモノな本性を隠せない
 なぜか彼の目が、見たことがないような熱を帯びているように思えたからだ。

「えっと……諏訪先生?」

 名前を呼んでも、彼は反応しない。だが、凪沙を見つめる目は、より情熱的になっている。そんな気がした。

 ふと、プロポーズをしてくれたときの悠真の表情と重なる。
 え、と目を見開いたとき、彼は急に凪沙の手を取ってきた。

「ちょ、ちょっと! 諏訪先生?」

 驚いたなんてものじゃない。こんなふうに諏訪が凪沙に触れてくるのが初めてだったからだ。

 手を引っ込めようとしたのだが、それを拒むよう彼はギュッと手を掴んでくる。

「藤枝さん。ずっと寂しそうな、悲しそうな顔をしているよね」
「え?」

 ドキッとしてしまう。まさか諏訪に見破られているとは思っていなかった。

 仕事中は、なるべく悠真とのことを考えるのを止めていたからだ。
 それでも、ふとしたときに思い出して、胸がツキンと痛くなるときはままあった。
 そのときの凪沙を見ていたのだろう。

 彼は、再び凪沙の手を握りしめてくる。
 何もかもを見透かされているように感じて、たじろいでしまう。

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