スパダリな夫はケダモノな本性を隠せない
 本当はすぐさま問いただしてしまいたい。だけど、ここはタクシーの中。さすがにタクシードライバーに醜聞を晒す訳にはいかないだろう。

 モヤモヤした気持ちを抱きながら、この時間をなんとかやり過ごす。
 ほどなくして二人の愛の巣であるマンションに、タクシーが辿り着く。

 無言のままオートロックを解除し、エレベーターに乗り込む。沈黙が重いまま、指定階に到着した。

 久しぶりに二人で玄関の扉を跨いだ。すると、パンプスを脱ぐ間を与えられないまま、彼に壁へと押しつけられてしまった。

「っ……ふ……んん」

 突如として、彼に唇を奪われる。
 だが、久しぶりのその熱に身体の奥からジワジワと感情が零れだしていく。

 この人が欲しい、もっとして欲しい。声を大にしていいたくなるような、甘酸っぱく執着に満ちた感情だ。

 このまま何も言わずに、奪って欲しい。そう思う反面、あのホテルで会っていた女性の影がちらついてしまう。

 彼の胸板を押し、まだ唇を重ねようとする彼を止めた。

「ちょっと待って、悠真くん」
「待てない」

 速攻言い切った。彼を見上げると、その瞳の奥には情欲が滲み出ている。
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