手を伸ばせば、瑠璃色の月
両手を顔の前でぶんぶんと振ったのに、当の本人は、

「小遣いだと思って有難く受け取っとけ」

と、かなりの上から目線で圧をかけてくる。


「あ、…すみま」

「ありがとうございますだろ」

「っ、ありがとう、ございます」


申し訳なく思いながら受け取ろうとしたらひょいとかわされて、小さな声で感謝の気持ちを伝えた。



「次、どこ行きたい」


蓮弥さんから受け取った千円札をしまっていると、唐突に話題を戻された。


「えっ、どこって言われても…」


そんな、いきなり言われても私には何の見当もつかない。

外出なんて数える程しかしないし、遠出なんて以ての外だ。


「…どこでも、大丈夫です」


先程の倍以上の申し訳なさを感じながら口を開けば、壁に片足を当ててもたれかかった蓮弥さんは、案の定小さく溜め息をついた。


「じゃあ、また俺が決めるけど。そうだな…海、行かねぇ?」


…海?

今、この人は海と言ったのだろうか。


「あ、…海、ですか?」

「電車で1時間くらいだけど、お前外出制限ないなら行けんだろ」


いや、そういう意味じゃなくて。

しれっと言い切った蓮弥さんを横目に、私は何とも言えない顔を作った。


だって、今は9月の下旬だ。

これが真夏ならまだしも、秋の季節に海に行っても泳げないだろうし、今行くのも如何なものか。
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