手を伸ばせば、瑠璃色の月

2




「ただいまー」


余韻に浸ったままの私が家に帰ったのは、4時を少し過ぎた頃だった。


「おかえりー。プラネタリウム楽しかった?」

「うん、すっごい綺麗だった!岳も暇な時行ってみなよ」


リビングに入ると、テレビでゲームをしていた岳がそれを一時中断して話しかけてきた。

自然な笑顔で答えれば、彼は同意の代わりに薄い微笑みを称えて頷いてくれる。


「あら、おかえり。お父さんが帰ってくる前に家事は全部終わらせたいから、知世も部屋着に着替えたら?岳も、宿題終わらせちゃいなさい」


と、そこで、カウンターの奥からエプロン姿の母が顔を出した。

こんな時間から凝った夕飯を作っているからか、若干の疲れが滲んだその瞳は私の表面だけを捉え、奥の奥まで踏み込もうとはしない。

私が誰とどこで何をしてきたのか、それを聞く余裕すらないのだろう。


「はーい」


母が今見ているのは、あと1時間足らずで父が帰ってくるという現実だけ。

その事が分かっている私は、素直に頷いてその場を後にした。


後ろから、ゲーム機を手にした岳の足音が追いかけてくる。


せっかく作った思い出が、綺麗を綺麗と言えた心が、

この家に居るだけでぼやけて消えてしまいそうだった。
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