手を伸ばせば、瑠璃色の月
父は毎日、最低でも1時間おきに母に電話をかける。

その際に聞くことは、“どこにいるか”“誰といるか”“何をしているか”“子供達も一緒かどうか”だけで、特段大切な情報を伝えるわけでもない。

でも、母が家にいなかったら理由を問いただすし、近所の人や友達と一緒の場合は早く別れろと念を押してくる。


私には、父が何をしたいのかなんてさっぱり分からないけれど、

多分彼は、母にしつこく電話をし続けることで母の行動を監視・制限しているのだろう。


3コールまでに電話に出なかった場合、もしくは折り返した時には雷が落ちる。

その事を母はよく知っているから、いつも電話の着信音は最大に設定していた。

そのせいで、私と岳は着信音が鳴り響く度に身体を強ばらせるようになってしまったけれど、母は私達の状態よりも父からの電話に出ることの方が何倍も大切だったんだ。



別に、電話に出なかったからといって不合理なことがあるわけでもない。

声を荒らげる理由もない。


それなのに、そんな些細な事で怒りを顕にしてしまうのがあいつの悪い側面だった。



「ごめんなさい」


階段から足を離した私はいてもたってもいられず、謝罪の言葉と共にリビングへと飛び込んだ。

夕飯の時は耐えたけれど、もう父の怒号と母の震える謝罪の声は聞きたくない。


嘘をつけ、頭を垂れろ、恐れるな。

私が、全て背負うから。
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