手を伸ばせば、瑠璃色の月
「今日、私もお母さんに何度か電話してしまったんです。だから、お母さんが電話に出れなかったのは掃除機のせいもあるけど、…私からの電話だと勘違いしてしまったんだと思います」


母からの困惑の目線も無視して、あたかも全てが自分のせいであるように話し続ける。


「だから、お母さんは悪くないんです。全部、私のせいです。…すみませんでした」


心の中で、こんなちっぽけな事で謝るなんてどうかしてるよ、と、もう1人の私が鼻で笑っている。

うるさい、そんなの知ってる。


頭を垂れながら、頭の中で自分ではない自分に言い返す。

父が何か言っている声が聞こえるけれど、聞く価値すらない。

表面上はやってもいない行為に反省し続ける振りをして、心の中では自分を見失わないようにして。





気がつけば、父からの説教は終わっていた。


「……」


辺りが静かなことに気付いてそっと顔をあげれば正面にいたはずの父の姿はなくて、代わりに洗面所の方からガタガタと音が聞こえてきた。

ああ、お風呂に行ったのか。

それすら気づかなかった。


上半身をあげ、腕を伸ばして伸びをする。


「知世」

「…んっ?」


不意に、隣の空気が揺れ動いた。

ゆっくりと隣を見れば視界に映り込むのは、眉根を下げた母の姿。
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