手を伸ばせば、瑠璃色の月
「貴方、電話なんてしてないでしょう…?どうして嘘なんか」

「嘘じゃないよ」


まるで、それ以上言葉を紡がれるのを拒むように。

何重もの嘘に身を包んだせいで、もう制御が効かなくなっていた。


「電話をしようとは思ってたの。だから、話盛り過ぎちゃった。…私、課題終わらせてくるね」


これで、いいんだ。

母に向かうはずだった毒牙は私を噛み、心の奥底から血に似ても似つかないドロドロした何かが溢れ出す。

それを見せないように踵を返した私は、母に何かを言わせる隙も与えずにリビングを後にした。


カーテンの隙間から見えた夜空には何の光もなく、いつかの夢と同じように闇色に染まっていた。




「…あれ?」


今度こそ自室へ戻ろうと階段を上っていた私は、階段に落ちているスマホに気がついてはたと足を止めた。


「これ、岳のスマホだ」


青いケースに包まれたそれは、どこからどう見ても弟のもので。


「スマホ落としたのに気が付かないなんて、珍しい…」


勉強をする、と言っていつもスマホのゲームをしている彼がそれを落とした事に気付かないなんて。

届けてあげよう、なんて軽い気持ちで微笑んだ私は、そっとそれを拾い上げた。

その表面に、高い所から落とされたような傷が付いていた事に気付きもせずに。
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