手を伸ばせば、瑠璃色の月
南山市の北東部に位置する、高級住宅街。


そのうちの一際大きな土地に建った三階建ての一軒家が、私達玉森家の所有する家。


家の周りは漆喰の塀で覆われ、玄関先には黒光りしたロートアイアンの門扉が構えている。

洋風を意識した内装にはシャンデリアは勿論、お風呂場にはジャグジーまで付いているのだから相当なお金が掛かっているはずで。


これらは全て、父の財産有りきのものだった。



父は某有名企業の取締役で母は専業主婦、高校2年生の私は、幼稚園から大学までが附属となっている私立の名門校に通い、弟は私と同じ学校の中等部に通っている。

これだけ聞けば、私達の生活を誰もが羨むはず。



でも本当は、私も弟も“普通”の生活に憧れていた。


表面だけの”家族”の絆を守り通す事に、心の底から疲れてしまっていたんだ。



そう思ってしまう大きな原因は、父がかなりの男尊女卑の考えを持った、俗に言う”モラハラ”気質があるから。

人の事を常に貶す父に、私と母は散々痛めつけられて苦しんできた。


いつ父の逆鱗に触れるか分からないから、父が家に居る夜と休日の家の雰囲気はまさに地獄と化している。

些細な事で母が怒鳴られるのを見るのも、その飛び火に傷付くのも幼い頃から日常茶飯事。
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