手を伸ばせば、瑠璃色の月
食器の置き方から始まり、掃除の仕方や外出する際の服装、更には、平日は父よりも早く家に帰らなければならない等、私の家には束縛にも似た独自のルールが蔓延っている。


父は口が達者なだけで滅多に手を上げないから、証拠不十分で警察に届け出る事も叶わなくて。

というより、こんな事に警察は耳を傾けてくれるのか、という疑念の方が勝っていた。


この状況が異常だと分かっているはずなのに、母は父の遺産に目が眩んでいるのか洗脳されているのか、それとも世間体を気にしているのか、父から離れようとしない。

彼女は頻繁に父の愚痴を言って、私や弟に“父は悪い人”というイメージを植え付けているというのに。


父に全ての権力を握られたこの家で、ただの子供である私が出来る事なんて何も無かった。



けれど、父親への愛情がとっくに消え失せたこの家でも、たった一つの救いがあって。

それは、父が将来的に父の会社を継ぐと約束されている弟に対しては、滅多に声を荒らげないということ。


多分、父は岳が成長した時にそれを嫌がらないように、と、一人だけ優遇措置を取っているのだろう。


けれど、やはり本人は私達だけが貶されているのを見るのは耐えられないようで。

彼は、隠れて父の事を“あいつ”と呼び、私と共に密かに陰口を言い合ってきた。

それが、父が発する言葉の暴力に飲み込まれない為に私達が生み出した唯一の抵抗策だったんだ。


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