手を伸ばせば、瑠璃色の月
十五夜

1




9月半ば、十五夜の深更。


カタンッ……


近くから小さな物音がして、私ー玉森 知世(たまもり ちせ)ーは目を覚ました。

それと同時に頬を撫でる、涼しい秋風。


親の言いつけ通りに窓は閉めて寝たはずなのに、おかしいな。

重力に引っ張られる瞼と闘いつつ、その僅かな疑問を糧にして必死に目を開ける。


窓が開いているのなら、親に気付かれる前に閉めなくちゃいけない。

そうしないと、怒られる。

そんな事を、ぼんやりとした頭で考えていた時。


「っ、!?」


私の目は、目の前の壁に何かの影が横切ったのをはっきりと映した。


何、今の。

壁の方を向いて横向きになっていた私は、石像の如く身体を強ばらせた。



月光に照らされてゆらりと動くカーテンの影の横に見えるのは、明らかな人影。


人影?人が居るの?夜中に、私の部屋に?

そこに居るのは、誰…?


そう考えるよりも先に、“父親かもしれない”という最低最悪の予想が頭の中を渦巻いた。


でも、もしそうだとしたら、父は静かに私が目を覚ますのを待つなんて真似はしない。

私の耳元で、吐き気がする程に気持ちの悪い言葉を囁くはずだから。


なのに、ベッドに映る人影は私の事なんて気にも留めていないみたいだった。
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