手を伸ばせば、瑠璃色の月
私の記憶の中にいる父は、子供の事よりも常に自分の事を心配していた気がする。


思わず足を止めた私に気づいた岳が、小さく息をつく。


「父さんも、あんなだったら良かったのにね」

「…そうだね」


子供達の手を引きながら歩く男性が、雲の上の存在に思えた。


「…行こう」


そして、再び歩みを進めた私は心の中で呟く。

岳がこんな発言をするくらいだから、私達は父に手を繋がれた事なんて無いに等しいんだろうな、と。






━━━━━━━━━━━━━━━……


そして、それからちょうど30分後。


「何ですって?泥棒を見た!?」

「ちょ、声が大きい!」


学校に到着して岳と別れた私は、教室で中等部からの親友である竹内 美陽(たけうち みはる)の大声を聞く羽目になっていた。


その原因は、ただ一つ。


「何を盗まれたの、いつ被害に遭ったの、どこから侵入されたの!?」


私が、ほんの軽い気持ちで“昨夜、泥棒が家に入った”と説明してしまったから。


「えっと、盗まれたのは私のネックレスで、時刻は夜中、侵入経路は…私の、部屋の窓から」

「はあっ?知世の部屋から?全く、貴方の家はどんな警備体制敷いてるのよ!?」

「…ははっ、そうなりますよね…」


うん、貴方がそう言いたくなる気持ちは心から理解出来る。
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