手を伸ばせば、瑠璃色の月
私は、胸の下まで伸びた艶やかな黒髪を振り乱して顔を覆った友達を見て苦笑いを浮かべた。



根っからのお嬢様で言葉遣いも礼儀正しい美陽と私は、同じ高級住宅街の中に住んでいる。

私の家の三軒隣にある高級マンションに住んでいる彼女が、泥棒が出た事に対してこういう反応を取るのは当たり前。


それに、彼女の母親はファッション界で大成功を収めた有名デザイナー、父親は銀行で働く営業マン。

彼女の家が盗みに入られた場合、大損害を被る事は明らかだから。



でも。


「あの泥棒さん、あんまり悪い人には見えなかったんだよね。そんなに怖くなかったし、私のネックレス盗る時も“これ、貰うわ”って言ってたし」


机に頬杖をついた私は、昨夜の事を思い返しながら首を捻った。


確かに、人のものを盗むのは悪いと思う。

でも、盗む事をいちいち報告してくるような泥棒が、根っからの悪人だとは思えなかったんだ。


「はあ?貴方、忌まわしき悪党の肩を持つ気?しかも“さん”付けだなんて、呪われても知らないわよ」

「いや、呪いだなんて大袈裟な…」

「一度味を占めた泥棒は同じ事を繰り返すの。私の家も、いつ被害に遭うか分からないわ」


ここに来て、ただの話題のネタとして出した話が、何だか大事になってしまいそうな雰囲気を醸し出し始めた。
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