手を伸ばせば、瑠璃色の月
美陽が本気で自分の身を心配しだしたのを見て、やってしまった、と心の中でほぞをかむ。

彼女の前で、この話題は出さなかった方が良かったかもしれない。


一度は彼女の意見を否定しようとしたものの、その気迫に負けた私が何も言えずに口を噤んだ、その時。



「それ、夢じゃなくてー?いくらなんでも高級住宅街に忍び込むなんて、馬鹿のやる事でしょう」


何処からか現れた男子生徒が、私の隣の席に当たり前のように座って話に割り込んできたんだ。


「朔…」


一体、いつから私達の話を盗み聞きしていたんだろう。

なんて私が考えている事も露知らず、肩につくくらいに伸びた髪を金色のピンで留めた、朔こと大原 朔(おおはら さく)は、

「おはよー!」

女子だと言われても違和感がないほどに自然なポーズを取りながら、私達に向かって微笑んだ。



朔は、此処一体で一番大きく設備も整っている“南山総合病院”の院長の息子。

生まれた時から病院の跡を継ぐ事が約束されている彼は、医学部に進学するべく日々勉強を重ねている。


彼には姉と妹がそれぞれ二人ずつ居る為、その影響で言動が少々女性寄りになっていて、

朔自身はそれを気にしているようだけれど、長年の付き合いである私や美陽にしてみれば、それは彼の立派な個性だった。
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