手を伸ばせば、瑠璃色の月
それが私の創り出した架空の人物だなんて、あまりにも勿体ないような気がしなくもなかったんだ。




「そうだとしても、泥棒と鉢合わせる夢だなんて後味が悪いわね。夢占いか何かに載っていないかしら」


暫くして、いつもの活気を取り戻した美陽がポケットからスマホを取り出したのを見た私は我に返った。


「夢占い?何それ」


そんな言葉、聞いた事がない。

ぽかんと口を開いたままの私に、彼女はスマホで検索する手を止めずに説明してくれる。


「夢占いは、夢に出てきたものがその人の未来を暗示する手掛かりになっている、と考える占いの一種よ。信じるか信じないかは貴方次第だけれど、泥棒の夢だなんて気になるじゃない?…あっ、あったわ」


興味深そうに彼女のスマホを覗き込む朔をお構いなしにスマホの上を滑る彼女の親指が、ある所でピタリと停止した。


「…知世。貴方、意外と良い夢見たのかもしれないわね」


そうして、検索結果を長い事見つめていた美陽は、顔を上げて微笑んだ。


「どういう事?」


状況が読めない私は、彼女のスマホに向かって手を伸ばし、

「いっ、」

ほんの一瞬、こめかみに鈍い痛みを覚えて顔を歪めた。


でも、私は嘘と演技が得意だから。

先程の呻き声を空耳だと勘違いさせる勢いで涼し気な表情を作った私は、今度こそ自然な動作でスマホを受け取った。
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