手を伸ばせば、瑠璃色の月
「何処に行ってたんだ」


最悪。

私、この感じ知ってる。


「友達と、学校で…先生の手伝いをしていました」


彼の声がやけに静かなのは怒りを溜めているからだ。

私は、手で拳を作りながら呼吸をするように嘘を吐いた。


タメ口なんて許されない、父と話す時は丁寧語と尊敬語と謙譲語を総動員させないと。

正直に保健室で寝ていたと言ったら学費の無駄だと言われるだろうし、美陽に送って貰ったなんて言った暁には、人様に迷惑を掛けたと怒られるはず。



今考えれば、この時の私はいつも通り父の機嫌を損ねないような返事をしたはずだった。

なのに、この日の父の導火線は変な所に隠れていたようで。


「…そうか」


その言葉を紡ぎ終わるか終わらないかのうちに、

「やっ…!」

私は、勢いよくこちらを振り向いた父に拳を上げられたんだ。


肌色の巨大な玉は顔面すれすれを横切ったけれど、父が冗談抜きで怒っている事など一目瞭然。


「何で、」


涙目になりながら見上げた父の顔は、般若そのものだった。


何その顔、本当にむかつく。

それが娘を見る目なの?狂ってるよ、あり得ない。

何でもかんでも否定してさ、頭のネジ外れてるんじゃないの。


段々と、自分が抱く感情が恐怖から憎しみへと変化し始めているのを感じる。
< 46 / 122 >

この作品をシェア

pagetop