手を伸ばせば、瑠璃色の月
駄目だよ、倍返しを食らうだけだから。

もう一人の私が頭の中で声の限りに叫んでいるけれど、止められなかった。


「…私だって、先生の言う事を聞いただけです」


あろう事か、小さな反発心が生まれてしまった私は、皮肉めいた言葉と共に父に逆らってしまったんだ。


「うるせえ!父親より遅く帰ってくる馬鹿が何処に居るんだよ!」


でも、もちろん怒り狂った父の気が静まる事はなく。


「!?」


私は父に胸を突き飛ばされ、よろけて棚に手を付いた。

その拍子に、棚に置かれていた画鋲の箱の蓋が開き、大量の画鋲が雨のように床に降り注いでいく。

その光景を目にした瞬間、父に突き飛ばされた反動からか、頭が脈打つように痛んだ。


「痛っ、」


その痛みに気を取られた私は、思わず棚から手を離してしまったんだ。



そこからは、全てがスローモーションのように目に映った。

身を護ろうと地面に伸びる両手、眼下に迫るは針の山。


刺さる。


そう思ったのも束の間、

「いっ、……!」

私は、右半身から勢いよく床に叩き付けられた。


右半身と床についた左手に、大量の画鋲がぶすりと突き刺さる。

あまりの激痛に、一瞬呼吸の仕方を忘れた。


「姉ちゃんっ!?」


下唇を血が出る程に噛んで叫ぶのを堪えた私の元に、切羽詰まった声をあげた岳が駆け寄って来たのを感じる。
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