手を伸ばせば、瑠璃色の月
…いや、元はと言えば、誰にも何も言わずに自分の心の中に押し留めていた私が悪いのだけれど。


「っ、…」


それでも、闇に紛れていた自分の心が光ったのが分かって、初めての感情に戸惑いを隠せなくて、

「ほらな、…壊れてからじゃ遅いんだよ」

どこか予想がついていた、と言いたげな泥棒さんに優しく背中を擦られた私は、再び静かに涙を流したんだ。




「なあ」


それから、溢れ出る涙を拭いていた私がようやく顔を上げたのは、泥棒さんが不意に口を開いた直後の事だった。

人形よりも宝石よりも美しい瑠璃色の瞳は、ただひたすらに私だけを射抜いている。


「俺と一緒に、逃げよう」

「…え、」


そして、彼の黒いマスク越しに紡がれた言葉に、私の充血した目は見事に点になった。

…この人、いきなり何を言っているの?


「ああいや、今のは言葉に語弊があった」


小さく咳払いをした泥棒さんは、少し言いづらそうに、でも決心した顔つきで再び口を開く。


「…お前の一ヶ月、俺にくれない?」

「へ…、」


いや、こっちの方が言葉に語弊がある気がするのだけれど。

泥棒さんの言いたい事が分からず、思わず眉をひそめた。


「…だってお前、このままだといつか本当に壊れるだろ。人間はロボットみたいに修復すんの大変なんだから、壊れる前に逃げねぇと」
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