手を伸ばせば、瑠璃色の月
現実逃避も、時には役に立つから。

泥棒さんは自分の言葉に確信を持っているのか、自信ありげに小さく頷いた。


「…でも、逃げるって言ったって、どうやって…。それに、私がいないと他の家族が、」


思わず反論しかけた私は、ある事に気が付いてはたと口を噤んだ。



…そうだ、これは夢。

泥棒がアクセサリーを盗む夢は幸福の前兆を意味しているのだから、

つまり彼は、自分がこれからも私の夢に出て来てくれると、そう言っているのではないだろうか。

この人が言いたいのは、夢の世界に逃げ込む事で現実逃避をしろという事なのだろう。


まさか、夢の住人が自ら私の夢に出ると教えてくれるなんて。

今まで見てきた夢は朝起きればうろ覚えになっていたけれど、この類の夢だけは記憶に残り続けるかもしれない。



「また、夢に現れてくれますか?」


こんなにも他人から心配される事は初めてで、どこか浮き足立った口調で尋ねてしまう。


「は?」


なのに、言い出しっぺである泥棒さんは怪訝そうに目つきを鋭くしただけだった。


何だか、話が噛み合っていない気がする。

もしかして、これが夢だという前提から説明した方が良いのかな。
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