手を伸ばせば、瑠璃色の月
月の名称なんて、満月と半月と新月くらいしか知らない。

だから、有明の月って何ですか、と口を開きかけたのに。


「ネックレスの件、悪かった。…またな」


真正面に座る私の耳に届くか届かないかの微かな声で謝った泥棒さんは、

「あ!」

いつかと同じように、窓から飛び降りたんだ。


「ちょっ、!」


慌ててそちらに駆け寄ろうとしたけれど、これが夢だと思い出した私は動きを止める。

夢なら何でも出来るのだから、きっと泥棒さんは擦り傷一つ負っていないのだろう。



「次に会えるのは、有明の月が見える日…」


戻ってきたネックレスをアクセサリーボックスにしまってから再びバスタオルに身を包んだ私は、半ば放心状態でぽつりと呟いた。

私、あんなに綺麗な瞳を持った泥棒さんにまた会えるんだ。

やっぱりあの人、全然悪い人じゃなかった。

こんな私の話を聞いて迷惑だと感じたはずなのに、最後まで寄り添ってくれた。


泥棒さんはどこかぶっきらぼうな物言いが特徴的なのに、その言葉は全てが的確に的を射ていた。



それに、あの人に抱き締められた時。


「…」


私は、無意識に胸に手を当てた。


彼の温もりは春風よりも優しく、太陽よりも温かかったんだ。

…何だか、今別れたばかりなのにもう会いたくなってくる。


ああ、私って凄く欲張りだ。

ふふっと笑みを零した私は、そっと目を瞑った。


身体に空いた穴から吹き出す痛みは、いつの間にかなくなっていた。

< 66 / 122 >

この作品をシェア

pagetop