手を伸ばせば、瑠璃色の月
朔が生粋の漫画好きだとは知っていたけれど、まさかこれ程までとは。


「何よ?おかげでウチの部屋は漫画で溢れてるけど、文句ある?」

「う、ううん!あるわけないよ!」


私の顔を二度見してきた彼が、冷ややかな視線を送ってくる。

私は、慌てて首を振って誤魔化した。


…同じ漫画を三冊も購入するなんてとんだ金の無駄だと思ってしまった事は、墓場まで持って行こう。



「そういえば、知世がまた悪党の夢を見たそうよ。貴方の話よりも知世の話の方が聞き甲斐があるわね」


それからすぐ、美陽が会話の内容を私が見た例の夢の話に切り替えた。


「ああ、悪党ってあの泥棒?めっちゃ高頻度で見るじゃん、…ねえ、くし持ってない?」

「そうなの、凄いよね。…これ使って」


再度放たれた美陽からの皮肉にも動じない朔は、本当に肝が据わっている。

そんな彼の手に折りたたみ式のくしを乗せながら、相槌を打った。


「サンキュ。…ん?」


いそいそと自分の絡まった髪にくしを通し始めた彼は、何かに気づいたのかはたと動きを止めた。


「知世、もう一回手出して」


くしを髪の毛にさしたままの朔の表情は、疑念の色を浮かべていて。


…私、右手でくしを渡さなかった?

朔の目は、明らかに私の右手に注がれている。


ああ、美陽の時は気を付けていたのに、よりによって朔の前でやらかしてしまったなんて。
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