手を伸ばせば、瑠璃色の月
「朔!?」


…もう、何がどうなっているのかさっぱり分からない。


「ウチだって、やるときはやるんだから!」


けれど、こちらは武器を所持していないのか、美陽が手にしていたスリッパをひょいと奪うと、そのまま泥棒さんの方へ近づいていった。


「え、」


…二人の言う通り、確かにその人は泥棒だ。

でも、彼は私の話を聞いてくれた心の優しい人でもあるから。


だから、彼が追い詰められる理由なんてない。


「待って、駄目!この人は良い人なの!」


慌てた私はベッドから滑るように降り、泥棒さんと二人の友達の間に立ち塞がった。

何の防御力もないのに、両手を広げて彼らの行く手を阻もうとする。


驚いたように目を見開いて固まる二人の表情が、月光によって暴かれた。



何の考えもなく、ただそのままの姿勢を保っていると、

「……ありがとな」

後ろから、夜の闇より静かで聞き覚えのある声が鼓膜を震わせた。


「泥棒、さん」


震えた声で、でも確かな安堵と共に彼を呼ぶと。


「助かったよ」


空気がゆらりと揺らめき、目の前が暗くなった。


それが、泥棒さんが私の前に立ったからだと理解するのにそう時間は掛からなくて。



でも。


「…えっ、?」


中腰になってこちらを見つめる泥棒さんを見返した私は、愕然とその場に立ち尽くした。




だって、あれ程美しく光り輝いていた彼の左目が、

「碧く、ない…」


底なしの闇を映し出していたから。


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