手を伸ばせば、瑠璃色の月
模範にするべき存在である父の言動が常軌を逸しているのだから、その結論に達するのも仕方がないと思ってしまった。



夜、玄関に取り付けられたベルが鳴り、父の帰宅が分かった瞬間から私達を取り巻く空気は一変した。

岳は父と鉢合わせする前に3階の自室へと逃げ帰り、私は母に余計な被害が及ばないようにリビングに留まって。

父の需要のない話に耳を傾け、呼吸するように出てくる貶し言葉の山には聞こえなかったふりをして、空気を読んで読んで読み続けた。


母や私に対する父からの暴言、父に対する母からの愚痴に挟まれた私は、ただ二人の為にそれを受け止める事しか出来なくて。

泥棒さんに抱き締められたおかげで消え去ったと思っていた黒い塊が、私の中で増幅していく。


疲れた、疲れた疲れた疲れた。

でも、父を怖がって部屋から降りてこない弟の為にも私が頑張らないと。


とっくのとうに壊れたこの家に残る僅かな秩序を、乱してはいけない。



部屋に戻った私は、疲れ切った身体を休める為に一旦はベッドに横になったのだけれど。


「…駄目、まだ寝ちゃ駄目」


数日前に立てたある仮説を立証する為に、必死の思いで勉強机の前に腰かけて、

ただひたすらに、夜が更けるのを待っていた。
< 77 / 122 >

この作品をシェア

pagetop