手を伸ばせば、瑠璃色の月
そして、日付が変わってしばらくした頃。
机に肘をつき、暇つぶしにスマホを弄り始めた私の耳に、閉めていたはずの窓が開く音が聞こえた。
…深夜にこんな音を立てるのは、もうあの人しかいない。
小さく顔を上げ、ごくりと唾を飲み込む。
ゆっくりと後ろを振り返れば、夜風にたなびく白いカーテンの向こう側に、見知った黒い影が揺らめいていた。
柔らかく細い風が収まって顕になるのは、闇色に身を包んだ男性の碧く澄んだ瞳。
ああ。
言葉通り、夢が現実になった。
「…泥棒さん、来てくれたんですね」
以前とは違い、椅子に座って窓の方を見ている私と初っ端から目が合った彼は、最初こそ驚いたように目を見張ったけれど、
「ああ」
いつもの、ぶっきらぼうな返事を返してくれたんだ。
「お前、怪我はまだ痛むのか」
「大分良くなりました。傷も目立たなくなってきましたし」
開口一番、泥棒さんは私の怪我の様子を心配してきた。
元々ひとつひとつの傷は小さかったから、治りも自ずと早くなるようで。
ほら、と腕を捲ってみせると、
「なら良かった。背中の傷が痛くてそこに座ってんのかと思ったわ」
窓辺に座る彼は、優しく目を細めて笑いかけてきた。