手を伸ばせば、瑠璃色の月
それだけで、自分の心がキュッとすぼまったのを感じる。

ただ、この感覚は父親が雷を落とす時に感じるものとは一線を画していて。


名のないそれに見て見ぬふりを決め込んだ時、

「んで、父親とはどうなんだよ?今日も何かされたのか」

泥棒さんが、至って普通の口調でそう尋ねてきたんだ。

需要もなく、どちらかと言えば聞き手までもを不快な気持ちにさせてしまう私の話なんて忘れてしまって構わないのに、自ら気にかけてくれる事に僅かな感動を覚える。


「いえ、今日はそこまで酷くなくて暴言だけでした。両親の間で、仲裁を」

「…そうか。まあ、いつもよりマシだって思えるんなら、それだけでも夢の効果はあるんじゃねえの」


そして、私の短い説明を聞いた泥棒さんは、自らこの事を“夢”と称して頷いた。

私も小さく笑い返したけれど、

実は心の中で、自分の犯した間違いに触れるタイミングを見計らっていた。



この人は、ずっと私の勘違いに付き合ってくれていたんだ。

これが現実である以上、夢占いの結果は全て水の泡になる。

泥棒さんとの出会いは私にとっての幸せの前兆ではなくなるし、この先私を待ち受けるのはいつもと変わらない地獄の生活。


でも、彼はそんな私の想いを全て汲み取った上で、敢えて“夢”の中の住人を演じ続けた。

なんて、心の優しい人なんだろう。
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