手を伸ばせば、瑠璃色の月
2
泥棒さんの目は伏せられ、長いまつ毛は小刻みに揺れている。
私の部屋に入って来た時の堂々とした素振りは影を潜め、彼は、どこか落ち着かなげに両手を膝の上で組んだ。
「ずっと勘違いしてて、すみませんでした」
そんな彼をしっかりと視界に映しながら、私は静かに頭を垂れる。
だって冷静に考えれば、私が夢だ何だと言わなければ、泥棒さんは今日私の部屋に来なくても良かったんだ。
彼に、無駄な労力を使わせてしまった。
「…でも、来てくれて、ありがとうございます」
けれど、続く言葉を聞いた瞬間、泥棒さんが弾かれたように顔を上げた。
「は…?お前、何言ってんの」
「え?」
「元々、俺はこの家に盗みに入ったんだぞ?それなのに、何で“ありがとう”なんだよ」
泥棒さんの表情は何一つ読み取れないけれど、ただその碧眼が美しくて、この期に及んでも尚見とれてしまいそうになる。
でも、さすがに空気を読んだ私は目線を少し下げて床の辺りを見つめた。
泥棒さんの言っている事は正しいけれど、
私にとってみれば、これは“ありがとう”なんだ。
「けど…俺の方こそ悪かった。警察に突き出してくれても構わないし、何ならこれから自首、」
でも、私が何かを紡ぐよりも先に、泥棒さんはおもむろに立ち上がって窓枠に足を掛けた。