手を伸ばせば、瑠璃色の月
「じゃ、俺そろそろ帰るわ」


そこからぽつぽつと会話をした後、不意に蓮弥さんがそう言って立ち上がった。

欠伸を噛み殺していた私は、こくりと頷く。


「そっか、もう2時ですもんね」


ふと壁掛け時計を見上げれば、いつの間にか短い針は2を指していて、そりゃあ眠くなるわけだ。


「明日学校だろ?遅刻すんじゃねーぞ」

「はい」


音を立てないように伸びをした彼は、マスクをつけながらそんな心配をしてくれる。

その姿はやけに妖艶な美を含んでいて、

「あ、あのっ」

照れそうになる気持ちを抑えながら、窓枠に手を掛けた蓮弥さんを呼び止めた。


「ん?」


首だけを回してこちらを向いた彼の顔は、既に大部分が布に覆われていて目元しか見る事が叶わない。


「次は、いつ会えますか…?」


そんな泥棒と交わしたたった一つの約束だけは、守りたかった。


「…次、か」


けれど、私の想いとは裏腹に、完全に忘れていた、と言いたげに目をぱちくりさせた彼は、私の方へ向き直った。


「お前、親に外出制限とかされてる?」


不意に問い掛けられ、ふるふると首を振る。

確かに、蓮弥さんがこれ以上私の家に忍び込むのは危険だから、私が自ら外に出た方が話は早い。
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