手を伸ばせば、瑠璃色の月
蓮弥さんの歩幅は大きくて、ついて行くのがやっと。

まだそんな事を言ってるんだ、なんて考えながら、私は小走りで彼の隣に並んだ。


「それを言うなら、蓮弥さんだって私の事を待っててくれたじゃないですか」


貴方は、本当に罪人じゃないんですよ。

もしも貴方が何らかの悪巧みを考えていて、それを実行に移すとしても、

私が抱く苦しみは、父からのそれに比べればお茶の子さいさいだから。


さすがにそこまでは言わなかったけれど、

「…ふっ、」

元泥棒さんの頬が歪められたのが分かって、それを見た私も正面を向き直った。



…ああ、父の監視下から逃れられた今だけが、私の唯一のしあわせだ。




「飯、ここでいい?」


しばらく歩き、蓮弥さんがぬっと指をさしたのは、値段はお手頃でも巷ではそれなりの人気があるイタリアンレストランだった。

いつもは三ツ星の高級レストランにしか足を運ばない美陽が自ら行ってみたいと行っていたから、その名前だけは何となく記憶の片隅に残っていた。


「あー、お前お嬢様だからこんな安っぽい店じゃ嫌か」


私が何も言わないからか、蓮弥さんは薄笑いを浮かべてまた歩き出そうとする。


「あっ、」


違う、そういう事じゃない。

私はお嬢様でもないし、この店が嫌なわけでもない。
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