手を伸ばせば、瑠璃色の月
「私、ここが良いです、!」


慌てて、遠ざかるその腕を掴んだ。

蓮弥さんの筋肉質な腕がすっぽりと私の手に掴まれて、数秒遅れて慌ててその手を離す。


反射的にそんな行動をした自分にも驚いたけれど、

「…へー、お前も自分の意見あるんじゃん」

ゆらりと首だけを回してこちらを向いた彼の目は、どこか感心したように細められていた。



「メニュー、何がいい」


その後、レストランの列に並んだ私達は以外にもすぐにテーブル席に通された。

私の正面には蓮弥さんが座り、テーブルに肘をついてメニュー表を覗き込んでいる。


…今日彼に会って何度も思っている事だけれど、

やはり、この人が私の家に侵入してきたなんて、この格好からは到底想像し難かった。


「えーっと、」


言われた通りにメニュー表を覗き込んだ私は、喉の奥でうなり声をあげる。

何せ、このお店にはこぢんまりとした見かけによらず、豊富なメニューが存在していたから。


王道のピザやスパゲッティから始まり、ランチセットやらパンやらポタージュやら、写真付きのそれらからは今にも香ばしい匂いが漂ってきそう。


過度な束縛の上に家族が不仲なせいもあって、私は外食をした経験がほとんどなかった。

それに、私はいつも空気を読んで人に合わせていたから、こういう時に何を選んだら良いのかも分からなくて。
< 92 / 122 >

この作品をシェア

pagetop