手を伸ばせば、瑠璃色の月
『お父さんが5時には帰って来るみたい。それまでに夕飯の準備も全て終わらせたいから、なるべく4時までには帰ってきてね』


私が美陽と朔と遊んでいると思い込んでいる母からの連絡は、そんな内容だった。



…どうして、父は私の束の間の楽しみさえも簡単に壊してしまうのだろう。

この間は画鋲が皮膚に食い込む怪我をしたから、もう同じ間違いは繰り返したくない。


これではプラネタリウムも間に合うか分からないし、私って、本当に身勝手な人間だ。


「…ごめんなさい」


私の謝罪の声は、今度こそ、

「あー、まあそうなるだろうと思って」

いや、今回も、

「1時間後からのチケット、予約しといたんだわ。これなら終わるのも3時過ぎだし、余裕で間に合う」

蓮弥さんの耳には届いていなかった。


「えっ、?」


てっきり怒らせたと思って目頭が熱くなっていたのに、その涙は一瞬にして存在する意味を変える。


「もう、お前が怪我してるとこなんて見たくねえから」


ポケットからスマホを取り出して弄り始めた彼は、プラネタリウムのチケット予約完了画面を見せてくれた。


「お前が俺にくれた1ヶ月、無駄にはしねぇよ」


そこには、確かに“大人2人 予約完了”の文字が踊っていて。
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