手を伸ばせば、瑠璃色の月
「因みにこれも俺が払っちまったから、お前は何もしなくていい。…とにかく食べるぞ、本気で冷めちまう」

「っ、」


駄目だ、視界が霞んで蓮弥さんの表情が分からない。

私の家の馬鹿げたしきたりのせいでこんなにも困らせているのに、どうして彼はここまで優しい声色をしているの。


「…ごめ」

「ボンゴレビアンコ、食わねえなら貰うぞ」


まただ。

謝ろうとしたら遮られて、私は必死に口角を上げて首を振る。


「私が、食べます」

「当たり前だろ」


震える手でスパゲッティを丸め、口に含む。


「ん、…美味しい、」

「なら良かった」


お店で初めて食べたボンゴレビアンコはあさりの旨味を最大限に引き出していて、ちょっぴり涙の味がした。

瞬きをしたら透明な雫が頬を伝って、多分それは蓮弥さんにも見えていたはず。


「あ、口の横ついてる。ほら」


でも、彼はありもしない嘘をついて卓上をぐるりと見回した後、彼から見て左側に置かれていたおしぼりと紙ナプキンを渡してくれた。


ごめんなさい、と言いかけて、ぐっと押し留まる。


「ありがとう、ございます」


小さな声でそう伝えると、

「ん」

随分と良くなった視界の向こう側、

泥棒さんの碧眼が、満足そうに細められた。
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