手を伸ばせば、瑠璃色の月
「蓮弥さんは、プラネタリウム見るの初めてですか?」
「いや、小さい頃に何回か」
「そうなんですね」
その後、昼食を食べ終えた私達はプラネタリウムの入った施設に向かって歩き始めた。
会話が続かなかったらどうしよう、と危惧していたけれど、蓮弥さんは以外にも会話のキャッチボールをしてくれる人で。
どこかぶっきらぼうで気だるそうな口調の奥には、隠し切れない率直さが滲み出ている。
「お前は?あんの?」
不意に問い掛けられ、私は苦笑いで首を振った。
「小さい頃にあったかもしれないんですけど、もうあんまり覚えてなくて…。だから、実質これが初めてです」
「ふーん」
蓮弥さんが、小石を蹴った。
コロコロと転がったそれは、勢い余って溝に落っこちる。
「プラネタリウムは確かに人工物だけど、本当に綺麗な夜空が見れるんだ」
ポケットに片手を突っ込み、新たな小石を蹴りながら蓮弥さんが口を開く。
その姿は、見かけによらず幼い少年のよう。
「だから、…お前も今までの事全部忘れて、上だけ見てろ」
どうして、蓮弥さんの言葉はこんなにも心に響くのだろう。
父が同じ事を言ったら吐いてしまいそうなのに、この人の台詞は優しい温もりと共に荒廃した心に広がっていく。