カオスの海に溺れるサカナは眠れない夜に夢を見る

　『……んなもん、知るかよ』

　捨て台詞を吐き、俺は足早にリビングを出た。自室のドアを乱暴に閉め、パイプベッドの上に勢いよく仰向けで横になって考える。母さんが再婚するという事は……あの男が、俺の親父になって、あの女と俺が、キョウダイになるということだ。頭に思い描いてみても、あまりに突然の出来事で、どうもピンとこない。

　あの女は、いったいどう思っているんだろう……？　何食わぬ顔で、あの場にいた姿を思い出す。パッと見、大人しそうなタイプには見えない。どちらかと言えば、この手の話を毛嫌いしそうに見えた。俺が新しい父親を望んでいない様に、きっとあの女も継母(ままはは)なんて、望んでいないはずだ。

　そんな事を考えながら、どのくらい時間が経っただろう。部屋の扉をノックする音に、俺が返事をしないでいると、ゆっくりその扉が開いた。そこから覗いた顔に、俺は眉根を寄せながら、急いで体を起こす。

『勝手に入ってくんじゃねぇよ』

　荒々しい声で捲し立てたにも関わらず、女は後ろ手でドアを閉めると、屈託のない無邪気な笑みを浮かべた。