カオスの海に溺れるサカナは眠れない夜に夢を見る
 いつの間にか……なんて、(てい)のいい言い訳だと気付いたのは、いったいいつだっただろう? 仁那との出会いを回想した後、俺はまたひとつ寝返りを打ちながら、おもむろに瞼を開いて考えていた。きっと多分、初めて会った時からだと、仁那と離れた今なら分かる。俺はあの時、仁那に一目惚れをした。そんな俺がいた事を仁那は知らない。

 わがままで、すぐ不機嫌になる仁那。姉貴面して、実は頼りないところが多い仁那。そのくせ、何かにつけ俺を子供扱いする。そんな仁那に振り回されている自分が、もどかしくも楽しくて、後ろめたさなんて忘れていた。だけど……仁那を好きになればなるほど、気持ちはあふれそうになるばかりで、ひとつ屋根の下に暮らしている事を恨めしく思った事もある。そう……その想いが俺だけのものじゃないと知る日までは……

 非日常の毎日が、日常に変わりつつある頃、俺達の喧嘩は、姉弟としてではなくなっていた。

 『誰か他に好きな子できた?』

 『何で?』

 突拍子もなく仁那に訊かれて、イラつき気味に訊き返す。何も言わない仁那が、俺を更にイラつかせた。

 『別に』

 否定しながら肯定している様な俺の答えを仁那が上書きするなんて、思ってもみなかったんだ。
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