マーメイド・セレナーデ
素直にワンピースのことを伝えると怪訝そうな顔を一瞬だけ浮かべて、すぐにその色を消した。
わかった、と一言零すとそれ以上その話題に触れることがなかった。

一緒に選んでもらえないのかしら。
本当はただ、一緒に並んで外を歩く口実が欲しかっただけなのだけど。

あたしが翔太にそれ以上追究できなかったのは翔太の一言に怯んだだけじゃなくて翔太の携帯がなったからでもあるの。



相変わらず髪をいじりながら電話相手に耳を傾けている。
微かに聞こえる声は低音で聞き取れない。

それでも触れる指が暖かくて目をつぶってうとうとしてしまう。



「嫌だ」



心地よかったその空気もその一言で変わる。張り詰めた、あの鋭い眼に似たような。
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