マーメイド・セレナーデ
家に帰ると真っ暗な部屋が出迎えて大丈夫よね、と自分に言い聞かせたばかりだというのに一気に落ち込んだ。

こうやって、あたしを一喜一憂させるのは一人しかいないの。


リビングまで進んであたしの指定席のソファーに座る。
けど隣に翔太は居ないから、隣にずれると翔太の指定席に座りなおした。



何か飲もう、と思ってコーヒーメーカーのスイッチを入れた。



「あ、翔太はいないんだった……」



出来上がってしまった2杯分のコーヒーを捨てるのももったいなくてカップに注ぐ。
砂糖もミルクも何も入れないブラックコーヒーはあたしの舌には合わなくて、苦味が広がる。
一口飲んだだけでギブアップしてしまったコーヒーをシンクに流してしまってため息をついた。


リビングに1人きりなんて、初めてのことじゃない。
翔太の仕事が忙しいときはいつも翔太は扉の向こうに篭って仕事を進めるからリビングに1人きり。

だけど、同じ家に居るのを居ないとではこんなにもあたしの気持ちが違うなんて思わなかったわ。

お酒で気を紛らわそうとも思ったけれど、販売業のあたしは土日はもちろん仕事。
きっと口をつけたら過ぎるまで止まれないことが容易に想像できたから、早々にベッドに入ることにする。


ダブルベッドも翔太が居ないというだけで、余計に広く感じたし、寂しくなった。

冷たいシーツはあたしをさらに下へと追い込むの。
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