マーメイド・セレナーデ
『休みの』

「休み?ああ、うん。でも来月は取れるか分からないわ」



なんだかあたしだけ話してる気分。
翔太はあまり話してくれないんだもの。以前から朝は、あまり話さないほうだけれど。
電話越しだと表情が見えないから余計に思える。顔を見れば表情から言葉が伝わるのに。



『…………25日』

「25?」

『それだけだ、もう寝る。出るとき電話で起こせ』

「え、ちょ、翔太、待って。どう、……」



切れてしまった携帯を睨みつけてもどうにもならないことぐらい分かっていたけど、睨みつけて問い詰めたい気持ちになった。
言葉が足りないにもほどがある。

それでもわかってしまうくらいにはあたしは翔太に溺れてる。
25日に休みを取って欲しいと言うことなんだろうな、とぼんやりと思って、鳴り出したアラームをとめた。


今日、店長にそれとなく聞いてみよう。


それより、今から寝るって、……向こうでどういう生活してるのかしら。



靴を履いて、一連の動作を無意識にこなしながら翔太の携帯番号を表示させて電話をかける。
エレベーターを降りて、ドアをくぐり抜けたとき電話が繋がる。



「翔太?」

『あぁ、助かった……。じゃな』 



待って、とも言う暇もなかった。
呆然となったけど、走らなきゃちょっと間に合わない。

少しでも翔太を寝かせてあげたいと思って遅めに出てしまったから。
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