マーメイド・セレナーデ
唐突に、この距離が恨めしくなった。
表情を見て、会話してるあたしたち。顔が見えないで、言葉が止まるのはすごく気まずい。
話したい、というあたしの願望だけが先走って、ついていけない。


毎日、ストレートにしてるのも。ブラックコーヒーを作ってしまうのも。
態度で翔太と気持ちを交わしてるから。



「寂しい……」



いつからこんな弱い人間になってしまったのかしら。
不安なんてなにもない、と言える強い人で居たかったのに。

ただ、言葉が欲しい。
嘘でもいい、その言葉で何でもやれる気がする。

ずっとずっと好きなんて言えないけれど、言って欲しい。



『真知…………明日、昼に帰る』

「…………うん」



不器用な優しさがこんなとき、素直に染み渡る。
< 138 / 302 >

この作品をシェア

pagetop