マーメイド・セレナーデ
「寝る」



翔太は、それしか言わなかった。
手を上げられる、と恐怖に怯えたあたしを一体どう思ったんだろう。

あたしからは、翔太のあの眼しかわからなかった。
あたしを射殺すような、あの頃と同じ、鋭い視線。


翔太は寝室に消えてしまった。


リビングに残されたあたしはしばらく何も手につかなかった。


なんであんなに怒ったのかわからないし。怒ったといっても一方的過ぎてあたしが怒る間もなかった。

何故そこまで東京にこだわるのか教えてくれたっていいのに、それさえも一方的に航空チケットを投げ出しておしまい。
正直、翔太がわからない。
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