マーメイド・セレナーデ
物音一つしない部屋に重い空気。
翔太の居る寝室に行くこともできない。喧嘩、したばかりの雰囲気のままベッドを共にするのはうやむやになりそうであたしのプライドが許せなくて。

今更になってなんで翔太の言うことに反対したのかわからなくなって、旅行雑誌なんて買ってこなければよかったと後悔した。


けど、それ以上に。

一瞬でも翔太から殴られると考えた自分にどうしようもない感情を抱く。

昔から、そして再会してからも、翔太がそんなことするはずがないとわかっていたはずなのに。
それでも、あたしは反射的に反応してしまった。


ソファに足を抱え、膝に顔を埋める。
小さく、彼の名前を呼んでも当然返事はないけれど。

幸せな、気持ちは何処に行ってしまったんだろうって。
絶望のふちに立たされながら、あたしはぐるぐると同じところを回る思考に囚われていった。


今すぐにでも、謝りたいと駆け出したい気持ちと、あんなに怒らなくても、と思う気持ち。
夜も遅いし、と言い訳染みて言い聞かすこと、更に後悔するなんて思わなかった。
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