マーメイド・セレナーデ
エレベーターの中でも、タクシーの中でも、外を歩いているときでさえ離されなかった。
いつもなら信じられない状況が続く。


手続きを済ませた翔太があたしの腕を引きながら優しい目をして見下ろす。



「腹減らねぇか?」



翔太に見つめられるとなんとも言えないくらいに幸せな気持ちになるのだけれど、今はそうもいってられなかった。
空港には人が沢山溢れ返っている。

誰もがあたしたちを見ているようで恥ずかしい。
翔太と手を繋いで歩くというような恋人らしいことをし慣れていないせいかしら。

だからと言って離れたくない。
人の目は気になるけれど気にしたくない。

今は翔太だけに酔っていたい。



「軽く食べてから乗る?」

「そうだな、……っても空港ん中のレストランっつっても、なぁ」

「なら売店でおにぎりでも買ってどこかに座って食べてもいいわ」



自分の言葉に翔太が売店のおにぎりを食べてる姿を想像して、似合わなくて、少し吹き出してしまった。

それを見咎められてこつんと頭を小突かれたけれど。
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