マーメイド・セレナーデ
東京について何に1番驚いたかというと人の多さ。
田舎から今の街に出てきたときも随分と驚かされたけれどここにもそれ以上に驚かされた。

またのんびりと、ゆったりとした時間が流れる田舎とは違い、ここの人たちは違う時計を使っているのではないかと思うくらい流れが早い。


相変わらず翔太と手を繋いでいたけれど離してしまえば迷子になってしまうかもしれない、とぎゅっと強く握った。



空港を出てタクシーかバスか、乗るんだろうと思っていた。
あたしは今までで東京に来たこともないし、行きたいとも思わなかったから。
あたしにとってここはテレビの中の世界と同じ。

何度も出張で来ている翔太に任せておけば大丈夫かな、と特に行きたいところも気にしてはいなかった。

――それでまた喧嘩するのはごめんだわ。



繋がれた手に引かれるままに行くと、



「ども、真知ちゃん久しぶり」



車にもたれていた牧さんを見つけた。
吸っていたタバコを携帯灰皿に押し付けて揉み消すと手を挙げた。
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