マーメイド・セレナーデ
「……停める場所遠いんだよ」



その苛付いた声音に驚いた。
翔太怒ってたの?2人きりのときはそんな雰囲気が一切なかったわ。



「愛しの真知ちゃんと2人きりの時間を長くしてあげようと――――って危ねぇ、放り投げんなよ」



ニヤニヤと繋いだ手を見ながら話す牧さんに引きずっていたキャリーバックを押し付けて、翔太は後部座席のドアを開いた。



「どこに行きたい?ホテルは牧がチェックインするから気にしなくてもいい。荷物もあいつに預けとく。行きたいところを言え、牧が連れて行ってくれる」



あたしを先に乗り込ませて続いて隣に座った翔太はそう言った。

牧さんは押し付けられた荷物をトランクに乗せていた。



「どこって言われても――――」



運転席に乗り込んだ牧さんとルームミラー越しに目があってどきりとする。

田舎者だから都会のことなんて知らないわ。
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