マーメイド・セレナーデ
「買い物って服?」



牧さんの問いかけに考える。
東京にまできて服を買うのもなんだかしっくりこないわ。
だからと言っても、



「別に行きたいところって言われても、ね……」

「じゃ、東京初心者だから――勝手に連れてくぞー」

「ああ、頼む」



牧さんはそう行ってエンジンを掛けて車を進めた。



翔太の顔を見ても、ん?と何かを尋ねられるような顔じゃなかったからあたしも口をつぐむ。



今、翔太は何を考えているんだろう。

乗り込んだときに離れた手が寂しくて膝の上に乗せてきゅきゅっと何度か閉じると大きな手があたしの手を覆う。



「てかどこ行ってんだよ、」



表情は伺えなかった。
ほんのりと赤い頬が見えただけであたしは幸せになるんだけど。
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