マーメイド・セレナーデ
『翔太が朝めしを真知ちゃんととってやれっつーから。どうかなと思ってさ。チケットあるんだろ?一人じゃ寂しいだろうと思ってさ。……翔太の言い分だけど』

「あ、ありがと……」

『じゃ、8時半にそっちに行くから。じゃあね』



……電話が切れた後、もしかしたらあたしがドアに向かって叫んだ声は翔太に届いていたのかしら、と恥ずかしくなった。
だってそうじゃないと翔太がここまで気を利かせるわけないじゃないの。

…………牧さんが気を利かせてくれたのかもしれないけど。


一人でホテルのバイキングに行かなくてすんだと考えるとほっとした。
なんだかここってこわいんだもの。
昨日も思ったけど、人が多くて、なんだか時間が早く動いているみたいで、焦っちゃう。

それに今日は、翔太と別行動みたいだもの。
不安だったけど、牧さんがいると考えただけで少し安心する。……翔太がそばにいるときに比べると全然違うのだけど。


今日は、何がわかるのかしら。
ぼんやりと想像を巡らしてみるけれど、一向に形作られることはない。

曖昧で、知らないことばかり。
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