マーメイド・セレナーデ
角を曲がるたびに首から提げた名札が揺れる。
さっとそれに目をやって、ストラップが捩れて裏返しになったのに気付いて元に戻した。

後姿だけだけど、意識が十分あたしに向いていることが窺える。あたしのことを気にして歩くペースも考えている。


車を降りた後真っ先に彼女はストラップの着いた名札を渡して一応首から下げておいて貰えますかと頼んだ。
こういうのって関係者か不審者かと区別するためなんだろうし、とくに異論はなかったので受け取ったけれど。

関係者になりきれてないじゃないの。



「都」



後からあたしたちを追いかけるように届いたその声に目の前の彼女が立ち止まって振り返る。
釣られてあたしも振り返ったら、無表情の男の人が小走りであたしたちに寄ってきていた。

都、と呼ばれたのはこの女性だと思うのに、この人の視線はあたしから離れない。それどころかじっとあたしを見つめてくるものだからあたしが先に逸らしてしまった。
無表情で見られると睨まれてるみたいで怖いわ。
< 214 / 302 >

この作品をシェア

pagetop